製造業の付加価値

1997  福永

 ここ数年、日本は深刻な不況に見舞われ、最近ようやく景気が回復してきたといわれている。しかし企業の営業利益率は4%台の低迷を続けていることは既に見てきたところである。他方、人々は生活を続け、多くの商品を消費し続けているのも確かである。消費を止めるわけにはいかないとすれば、他方にはそれに見合う生産が行われているのである。
 製造業で生産される多くの商品は原材料に労働が加えられ、その存在形態を変更した状態で商品として消費者に届けられる。労働価値学説に従えば、通常の意味での原材料費の他に設備・施設の維持運転のための諸費用やエネルギーなどの各種の消耗品費を含めた広い意味での原材料費等にその企業で働く労働者の新たな労働が付加されたものが商品である。即ち、企業全体では生産された商品が全てその価値通りに販売することができたとすれば、
 売上高=原材料費等+付加価値             (1)
 となる筈である。日本の上場製造業を中心とした1600社あまりの企業についてみると次のようになっている。
 年間総賃金に対する賃金当たりの付加価値率(総付加価値/年間総賃金)の分布はほとんど水平であり、総賃金の大きさによらない。他方で、売上高に対する売上高当たりの付加価値率(総付加価値/売上高)の分布は右肩下がりである。
 賃金当たりの付加価値率の売上高に対する分布および従業員数に対する分布を次の図に示す。
 この賃金当たりの付加価値率は売上高に対しては右肩上がりであり、従業員数に対してはほぼ水平である。
 これに対し、売上高当たりの付加価値率は次の図に示すように、従業員数に対しても、資本金額に対してもほとんど変化のない水平である。
 これまで見てきた図のなかの直線は、横軸の変数の平均値、縦軸の変数の平均値、直線の周りの標準偏差および直線の勾配であらわすことができる。それらを纏めると次の表のようになる。
番号横軸変数 LOG(変数)縦軸の変数 変数値 分散率 勾配率
1従業員数2.87固定資産/従業員数26.70.9270.111
2従業員数2.87売上高/従業員数53.70.788-0.0157
3売上高10.53原材料費/売上高0.6610.2150.0526
4売上高10.53年間賃金/売上高0.1000.414-0.278
5売上高10.53営業利益/売上高0.04541.1970.134
6固定資産10.19営業利益/固定資産0.1041.259-0.147
7年間賃金9.47営業利益/年間賃金0.5301.3030.177
8売上高10.53売上原価/売上高0.7630.1700.00675
9売上原価10.41営業利益/売上原価0.06671.338-0.159
10資本金9.63営業利益/資本金0.3991.188-0.107
11株主資本10.20経常利益/株主資本0.07292.450.315
12資本金9.63経常利益/資本金0.3831.201-0.105
13年間賃金9.49付加価値/年間賃金3.850.562-0.0112
14売上高10.53付加価値/売上高0.3380.432-0.104
15売上高10.53付加価値/年間賃金3.860.5340.200
16従業員数2.87付加価値/年間賃金3.850.569-0.0251
17従業員数2.87付加価値/売上高0.3380.4360.0113
18資本金9.63付加価値/売上高0.3380.436-0.0300
 固定資産/従業員数と売上高/従業員数の単位は100万円/人である。分散率は縦軸の変数の直線の周りの分布の標準偏差/平均値である。勾配率は直線の勾配/平均値であり、横軸の変数値の一桁の変化に対する直線の傾きを表す。
 横軸の一桁当たりの変化に対して勾配率が1%台の変化しか示さないものは、番号2の従業員数に対する売上高/従業員数、番号17の付加価値/売上高、と年間総賃金に対する番号13の付加価値/年間総賃金、および番号8の売上高に対する売上原価/売上高の4つの分布だけである事がわかる。
 横軸の一桁の変化に対して勾配率が0.1以上の値を示すものは、番号1の固定資産/従業員数、番号5の営業利益/売上高、番号7の営業利益/年間総賃金、番号11の経常利益/株主資本および番号15の売上高に対する付加価値/年間総賃金の5つが右肩上がりであり、番号4の年間総賃金/売上高、番号6の営業利益/固定資産、番号9の営業利益/売上原価、番号10の営業利益/資本金、番号12の経常利益/資本金と番号14の付加価値/売上高の6つが右肩下がりである。
 勾配のほとんど変化のないグループ、また勾配率が正負の二種類のグループの存在も確かめられた。これらの理由は改めて検討されなければならない。
続く