日本の製造業

1997  福永

 よく知られているように、日本は高度に発達した資本主義国であり、日本の生産活動の大部分は資本主義企業によって行われている。主要な企業は株式会社として活動しており、株式市場は彼らの活動のバロメーターの幾つかを示している。彼らの生産した商品の販売量は景気の動向によって左右され、得られる利益の予想は時々の株価に反映されている様に、確実なものではない。 数年前のバブルの時代には、預金が利子を産み、資本は利潤を生むのは当然のことのように思われていた。しかし、資金は資本となって労働力と結合することなしには、それ自体ではなんの利益も生み出さない。商品生産を行っている企業の労働者の労働だけが新しい価値を創出しているのであり、生産と販売における熾烈な競争の結果として、個々の企業は利潤を手にすることが出来るのである。
 多くの経済学者は景気の指標を分析し、個々の企業の実態を調査し、日本の経済活動の将来を予測しようとしてきたが、将来についてはますます不透明になってきており、予測困難となっている。これまで信じられてきた理論によって予測困難となったのであるから、理論の再構築が必要となったとも言えよう。従って、今日の日本資本主義の実態を改めて分析し、資本主義の基本的性格を様々な指標の基本的要因の分析を通じて、原理的で既によく知られていると思われている事柄についても、新たに研究してみなければならない。
 
 まず日本の企業の生産活動についての分析から始めよう。
 生産活動は、それが資本主義的生産であるか否かには関わらず、一般的に、ある種の設備・生産用具を使い、原材料を加工する事を通じて、即ち生産活動によって生産物が作り出される。それらを模型的に図示すると次のようになる。
 日本の製造業の場合については、東洋経済新報社の「会社四季報」および日本経済新聞社の「日経会社情報」の最新の情報がそれぞれ CD-ROM に収録されて発売されている。それらには企業のより詳しい業務情報も納められているので、これらを使って、日本の経済活動の一端を把握することを試みる。勿論、そこには金融市場での上場企業に限られているのであるから、日本を代表する優良企業のものに限られていることは承知しておかなければならない。
 それぞれの企業の従業員数に対する設備の状況を表す資料として、企業の固定資産の金額を図2に示す。
 図からわかるように、両者即ち、企業の従業員数と固定資産の大きさには一定の相関関係が存在する。図の右側に、一人当たりの固定資産額、即ち資産装備率ともいわれているものを示す。
 図の中の実線は、横軸にとった変数と縦軸にとった変数、今の場合での左側の図では従業員数と固定資産額の間に、右側の図では従業員数と一人当たりの資産装備率との間に、直線的相関関係があるとした場合の分布について、最小自乗法によって得られた直線を示す。直線の両側の点線はこの直線の周りの標準偏差を表す。
 一人当たりの資産装備率は平均では約2700万円/人であるが、明らかに右肩上がりであり、その勾配は平均して、従業員数の一桁の増加に対して約300万円の増加、となっている。
 企業の生産活動の結果は生産物であるが、それらは企業の年間売上高に現れている。ここでも企業の従業員数と年間売上高との間には一定の相関関係が存在する。それを示すのが次の図3である。
 一人当たりの売上高の分布を右側に示す。平均値は約5400万円/人であるが僅かに右肩下がりである。即ち、売上高の一桁の増加に対し一人当たりでは約85万円の減少となっている。
 生産活動によって、労働力の費用と原材料費等(通常の原材料費の他に消耗品費及び設備の運転経費・エネルギー代などを含む)はともに売上原価に転化されていると見られる。そこで売上高に占める原材料費等及び年間総賃金の割合を見ることにしよう。図4に、売上高に対するそれぞれの割合の分布を示す。年間総賃金としては月額平均賃金の12倍に従業員数を掛けたものであるとした。
 図からわかるように、原材料費等の割合は売上高の増加とともに右肩上がりであるが、年間総賃金の割合は売上高の増加に対して大きく減少していることが見て取れる。売上高に対する年間総賃金の割合は分析した資料の範囲では、平均値は約10%であるが、売上高の一桁の増加に対しその割合を約3%減少させている。図からわかるように各企業ごとのこの割合は大きく散らばっており、標準偏差は平均値の 0.4 となっている。
 これまで見てきたように、企業の生産活動を表す幾つかの量の間には一定の相関関係があり、その中には相関関係には強弱がありそうであることがわかった。強い相関はより根本的な要因を予想させるものである。他方ある種の関係は広い範囲にわたって一定となる場合も見られたが、この比例定数自体はそこに含まれる二つの量以外の事柄によって規定されているものであることを示唆している。なぜそのような比例関係にあるのかは関心を集めるところであろう。
 次回以降にそれぞれの比例定数の意味について考察する予定である。
続く