自然界には、さまざまな回転が存在します。 銀河系の天体は、渦巻き状に回転しています。 地球は太陽の周りを公転しながら、自転しています。 パルサーと呼ばれる天体は猛烈なスピードで自転し、電磁波を放出しています。 身近なところでは、コマがあります。 さらにミクロの世界にも回転が存在します。 ミクロの世界の回転を突きつめてゆくと、素粒子の「スピン」にたどりつきます。

スピンの具体例


この「スピン」とは、素粒子の「自転」にあたる性質です。 素粒子がちょうど地球が自転しているように くるくるとまわっているイメージです。 現在の素粒子物理学の枠組みを構成する 基本粒子のほとんどは、スピンを持っており、 スピンは、素粒子にとって極めて重要な性質であることが分かっています。 たとえば、原子がその大きさを保っていられるのは、電子スピンの効果だと言えます。 仮に、電子のスピンがなくなってしまえば、私たちの体は、つぶれてしまうでしょう。

このように、スピンは非常に重要な性質ですが、 まだ、意外に基礎的なことがわかっていません。 たとえば、原子核を構成する素粒子である 陽子のスピンをその内部構造として クォークレベルで理解しようとすると、 「陽子のスピンが何によっているのか?」 いまだに謎として残っています。

一方で、スピンは、さまざまな研究分野で応用されています。 最も印象的で、よく知られているのは、医学診断で用いられるMRIです。 これは、陽子スピンを巧みに利用しています。 最近、このMRIを高度化した 「超偏極核MRI」の研究が始まりつつあります。 これは、原子核のスピンの回転方向を十分に揃え、MRIを行うことで、 その感度を従来の1万倍以上に挙げることができる技術です。 ところが、このような技術は特別なものですので、MRIの研究者が一朝一夕にできるものではありません。 一方で、素粒子物理学の実験領域では、この技術が実用化されています。

もし、素粒子物理学の研究者とMRIの研究者が交流し、 共同研究ができれば、新たなスピン技術が生まれるかもしれません。 このように、違った分野の研究者でもスピンというキーワードを用いて交流することで、 あらたな研究分野が創出できると期待できます。 この研究所では、まさにこの点を狙っております。 つまり、異分野の研究者がスピンというキーワードを通して交流し、 新たなスピン科学を開拓してゆこうというものです。 「総合スピン科学」という名前はこの発想に由来します。

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