外国為替市場

2001、4 福永

 §1 貿易と為替レート 購買力平価

 二つの経済圏を A 、B としよう。それらに共通する通貨が「金」である場合には、1グラムの「金」は経済圏 A では hA(例えば円を単位として測って) の通貨で取り引きされており、 B の経済圏では同じ量の「金」が hB(例えばドルを単位として測って) で取引されている場合である。hA/hB は共通の「金」を買うことの出来る B の貨幣に対する A の貨幣の比「金に対する購買力平価」である。共通の購入することの出来る商品(基準商品)として「金」の代わりに一定の消費者物資群をとれば「消費者物価指数による購買力平価」が、また生産者物価指数や輸出物価指数を基準ととれば別の購買力平価が得られる。

 日米経済圏の通貨の為替レート R は「基準商品」に対する購買力平価 hA/hBに等しくなる。’75年以降についてみれば、「基準商品」としては輸出入商品の価格指数平均がそれであるように見える(図1参照)。別の見方をすれば、アメリカの生産者物価指数に対する日本の輸出入物価指数の比”hA/hB”は為替相場によって規定された比率に一致するもの(輸出する商品としてはより安い方に偏った商品、輸入はその逆)だけが輸出入されるのであって総ての商品が輸出入されるのではないということによる。

RA/B=hA/hB・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 §2 金融資産と為替レート 金利差と直先スプレッド

 日本の金利が”rA”であれば、一定金額の”円”(=MA)をもっている人は一年後には”1+rA”倍となると予想する(=(1+rA)*MA)。今その”円”を現在の為替レート(RA/B)でドルに替える。ドルであらわせば次のように書ける。

MB=MA/RA/B・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

これをアメリカの金融機関に預けると、一定期間、計算の簡単のために1年とすると、この一定期間後にはアメリカの金利(=rB)によって”1+rB”倍になると予想される(=(1+rB)*MB)。これをその時点での”円”に替えると、為替レートが前とは違って、RA/B+ΔRA/Bとすれば、日本円としてはMB*(1+rB)*(RA/B+ΔRA/B)となると予想される。日本国内にあった”円”と一度”ドル”に替え、後に再び”円”に戻したときの金額は”1年後”ではほぼ等しいと予想する。等しくないときは等しくなるように先物相場が変更されるか、或いはどちかまたは両方の金利が変更される。

(1+rA)*MA=MB*(1+rB)*(RA/B+ΔRA/B)・・・・・・・・(3)

 (2)式と(3)式から次の関係を得る。

ΔRA/B/RA/B=(rA-rB)/(1+rB)≒rA-rB・・・・・・・・・(4)

 (4)式の左辺は為替レートの予想変化率(先物相場はRA/B+ΔRA/B)であり、右辺は日米の金利差である。この日米金利差なるものは日米の公定歩合の差であると主張している訳ではない。日米金利差の一つとして直先スプレッドがある。実際の為替変化率と直先スプレッドの関係は図2に示すようなものである。スプレッドは’78年頃までは為替相場の変化率を正に反映していたが、その後は実際の為替相場の変化率とは反対の動きをするようになった。

’90年代後半に限っても、為替の直先スプレッドはマイナスであるにもかかわらず、実際の為替レート変化率はプラスに(円安の方向)に変化した。直先スプレッドは短期の金利差から計算されるだけで、実際の為替変化率を予想するのではない。(4)式右辺の金利差は何によって規定されているかについては改めて検討が必要である。

 図2Aに示すように、直先スプレッドは両国のGDPのデフレターの比の変化率にほぼ等しいことも明らかとなった。

直先スプレッド=ΔDA/DA-ΔDB/DB・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 (5)式右辺は日米の消費者物価指数変化率の差であり、消費者物価指数比で表される購買力平価の変化率である。直先スプレッドは購買力平価の変化率であるといえる。従って為替レートが購買力平価に一致する場合には、為替変動率は直先スプレッドに一致し、スプレッドは為替の将来を正しく予想する。日本の場合にはこの予想は正しくないことはすでに見てきたところである。

 §3 為替レートと貿易黒字

 日本の貿易の輸出入額の推移を次の図に示す。恒常的に輸出額が輸入額を上まわることに特徴がある。図3Aにあるように大まかな見方では、為替レートの変化率は輸入超過額の輸出入総額に対する比と似た変化をする。為替レート変化率が負であるとき、すなわち円高が進んだときは、輸入超過額が負となること、すなわち輸出超過となるということである。

 図3Bに明らかなように、円高の進行は輸出超過が特に大きくなるときであるが、そのときは輸出入ともに絶対値が減少するときであり、輸入の減少率の方が輸出の減少率より大きいと言うことを示している。為替レートの変化は輸出よりも輸入の方により大きな影響を与えている。

 輸出入が拡大する時期は為替レートが円安ドル高に推移する時期であることも明らかである。長期にわたる貿易黒字の継続は、日本の外貨準備高の増加となってあらわれる。為替レートと外貨準備高との関係は次の図4に示す。

 全体的には為替レートは外貨準備高の -0.5 乗に比例すると書くことができる(図4@参照)。長い間、外貨保有高が多くなることと円高の進行は同時的であった。しかし’90年代後半の円安傾向は若干事情を異にする。他方’70年代後半以降では、為替レートは「輸出入物価指数の平均値/国内消費者物価指数」比に比例すると書くことも可能である(図4A参照)。日本の消費者物価指数がアメリカの生産者物価指数と似た変化をしてきたからである。

 図4Bから判るように、為替レートの急激な変化は、変動相場制への移行(’73.3)と第1次石油ショック(’73.10)、および第2次石油ショック(’78〜’80)による原油価格の高騰と期を一にする。’85年の円高への急激な変化はプラザ合意の結果である。特徴的なことは消費者物価指数の上昇にもかかわらず、日本の輸出品物価指数がこの30年間ほとんど変わらなかったことである。これこそ円高ドル安を支えてきた日本国内の経済的要因である。

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