営業余剰と純固定資本増加

 2001年7月15日 福永清二  
 §1 営業余剰の分解

 次の年次のための設備投資は社会の非消費生産物である。所得としてみた場合に雇用者所得と営業余剰の和は国内総生産の主要な成分である。営業余剰は法人企業のそれと個人企業のそれとの和である。個人企業の営業余剰と雇用者所得の和は家計個人企業の収入である。実際にはこれらの収入から税金、社会保障費積み立てなどが引かれたものが可処分所得となる。この可処分所得の中から消費支出を引いた残りはその年度の貯蓄である。すべての貯蓄の合計は純固定資本増加額の総計にほぼ等しく、消費されなかった生産物の総量にほぼ等しい。

 これらの関係は次の図に示す。営業余剰の配分は一般政府の介入による(図1の@から図1のAへの移行)。法人企業の営業余剰の大部分は利子払いと税金等に分解されて企業の貯蓄に回る分は僅かである(図1のAと図1のBの関係)。従って、次のサイクルのための設備投資は企業から見れば借入金すなわち何らかの負債の増加の形を取っておこなわれる。家計個人企業等の貯蓄は金融機関を通じて非金融法人企業に貸し出される(図1のBから図1のCへの移行)。この過程には金融機関の介入は不可欠である。

 図1をたどれば明らかなように、営業余剰は一般政府と金融機関の介入によって、結果として、固定資産増加へと変形されてゆくことが判る。営業余剰の大半は消費されており、この消費過程をどのようなものとするかについては一般政府の意向が反映される。

 §2 営業余剰と純固定資本増加

 営業余剰から純固定資本増加への移行は所得の再配分である。両者の関係は直接的に移行するのではないが、結果として営業余剰の一部が固定資本増加額になったように見える。

 「営業余剰/純固定資本増加」の比の経年変化をプロットしたのが図2のAである。1970年以降は大きな変化はない。単調減衰関数で近似すれば F=1.6+10exp(-0.15t)、t=暦年-1945年、と書ける。図2のBに見られるように企業の「営業余剰/純固定資本増加」比が増加関数的であるにもかかわらず、’70年代以前にあっては、設備投資の増加に対する営業余剰の割合が大きく減少してきたことの理由は、それまで大きな営業余剰をもたらしていた家計個人企業等からの寄与が減少したことによって全体として営業余剰が減少したからである。営業余剰の大幅な減少の主な理由は、農家・個人商店・個人サービス業等の営業余剰を生産する個人零細企業そのものが減少したためである。

 社会全体として見た場合に、’70年代以降では純固定資本増加に対する営業余剰の比はゆっくりと増加する傾向にある。しかしこの設備投資の増加(K')に見あった程に営業余剰の増加が見られるかと言えば、必ずしもそのようになっていない。図2のCに見られるように設備増加に対する営業余剰増加の比は時間とともに減少してきた。「営業余剰増加/純固定資本増加」の比は減衰指数関数的{=0.7exp(-0.0585t)}である。すなわち設備増強が営業余剰に及ぼす効果は次第に非効率となっているということである。

 まとめ

 日本資本主義にあっては、「営業余剰/純固定資本増加」の比は70年代以降は緩やかに増加またはほぼ一定といってよい。しかし「営業余剰増加/純固定資本増加」の比は、全体として見れば減衰指数関数的に減少し続けている。

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