日本経済の成長率について(補足2)

2001年3月  福永清二

 §1 HG(仮想)資本限界生産力理論

 コブ・ダグラス型の生産関数とは異なる意味での成長に関する理論の一つに「 HG 資本限界生産力理論」がある。この理論は松浦義満氏が「新しいマクロ経済学(東京教育情報センター H11年7月)」の中で”実証的経済モデル”として展開しているものである。

 ここでは、HG(hypothetical gross)資本限界生産力 r の定義を若干修正する。その年の最終生産物産出高の代わりに国内純生産(国内総生産 ー固定資産減耗)で置き換える。この場合でも資本限界生産力 r (営業余剰/期首資本)は資本の産出係数(Y/K) の関数として次のように書ける。

 r=営業余剰/期首資本総額( R/K )=A*(Y/K)1+B・・・・・・・・・(1)

 但し R は営業余剰総額である。このような取り方は松浦氏のものとは異なるが、営業余剰( R )と雇用者所得( W )の和は国内純生産( Y )である。上式のパラメータ A、B は図1に見られるように A=0.497、B=0.614 が最小自乗法によって求められる。1955,56,57年の3ヶ年の値は少し異なるようであるが、それらを除くと(1)式での関数近似はきわめて良く再現する。

 (1)式のパラメータ B と雇用者所得( W=Y-R)および国内純生産( Y )を使ってパラメータ T を定義する。

 T/Y=[W/(B*Y)]-1/B・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 T についての(2)式の定義は Y、K、T に関する次の式と同等である。

 Y-B=A*K-B+B*T-B・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 パラメータ T は「営業余剰/雇用者所得」についての簡単な関数で書くことができる。

 T/K=[(B/A)*(R/W)]1/B・・・・・・・・・・・・・(4)

 図2の場合も1955,56,57年を除けば(4)式の関数近似はきわめてよく再現する。図2から明らかなように、(2)または(3)式の T は(4)式による定義と同等である。T は”総合生産技術レベル”と呼ばれているものである。(4)式が示すように、この総合生産技術レベル T は資本と労働の間での生産物の配分の割合「営業余剰/雇用者所得」に関係している。

 この総合生産技術レベル T は鉱工業生産指数 I と密接な関係があり、今回の限界生産力 r の取り方でであっても、”I ∝T/D ”はほぼ満たされていることが確かめられた。

 §2 総合生産技術レベルと純固定資本形成額

 総合生産技術レベル T は T=I*D の関係式によって鉱工業生産指数 I と関係していることが明らかとなった。またD は純固定資本形成額のデフレター「名目/実質」比である。従って T は純固定資本形成額 ΔK と密接な関係にあることは確かである。すなわち

 T =[α*ΔK]β, ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 と書ける。但し上式のパラメータの値としてはα=5.1, β=1/1.15 をとればほぼ(5)式の等号を満たすことが可能である。このことは次の図で確かめることができた。

 この総合生産技術レベルと純固定資本形成額 ΔK のあいだの関係が決まると、期首純固定資本総額 K と純固定資本形成額 ΔK の一組によって、総合生産技術レベル T および国内純生産 Y を計算することができる。計算は実際のものと非常によく一致する。

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