§1 成長理論に於ける全要素生産性(TFP)について
経済成長理論は生産関数( F )を総労働者数( N )の関数と純固定資本総額( G )の関数の積として、いわゆる「コブ・ダグラス型」の関数形であらわす。
F(N,G)=(A*N)1-ν*Gν・・・・・・・・・・・(1)
A は技術変数といわれているものであり、νは定数である。生産関数から企業の生産活動に必要な支出、すなわち賃金( ω*N )とその他の必要支出、すなわち固定資本拡大を借入金でおこなっている場合にはその支払利子など( ρ*G )、を引いたものが最大となるように行動するとする。すなわち、
maxN,G{F(N,G)-ω*N-ρ*G }
上式を最大となるように N および G を増加させるよう行動する結果は、次の二つの偏微分方程式を解くことに帰着する。
ω=(∂F/∂N)=(1-ν)*Y/N・・・・・・・・・・・(2−1)
ρ=(∂F/∂G)=ν*Y/G・・・・・・・・・・・・・・(2−2)
ω*N+ρ*G=W+E=Y
W は雇用者総賃金、E は営業余剰総額である。技術変数の伸び率を「全要素生産性( TFP )」と定義すれば、Y=F(N.G) の対数微分から全要素生産性として次の式が求められる。
TFP=(Y'/Y)-(1-ν)*(N'/N)-ν*(G'/G)・・・・・・・・・・・・・(3)
(2)式から得られる結論は、1-ν=W/Y(=労働配分率)、ν=E/Y 、Y=W+E である。
(3)式についての実際との比較は次の図7に示す。
重要なことは、全要素生産性( TFP )はデフレターの伸び率( D'/D )に比例していると書き直すことができることである(図7B参照)。すなわち技術進歩と見られていたものは、実は単なる物価指数の変化率にすぎないのではないかということである。
この点を確かめるために次の図8を用意した。すなわち実質国内総生産について全要素生産性を計算してみればこのことが確かめられるであろう。
結果は予想通りであり、全要素生産性なる成分はほとんど変化することはなかった(図8BA参照)。
図7、図8の場合はコブ・ダグラス型の生産関数の指数部パラメータ νの実際は変化する量であり、定数とは言い難い。しかし現実の国内総生産額は純固定資本総額の指数関数で表示することは可能であり、指数パラメータを一定とすることができる。従って、生産関数をコブ・ダグラス型と書くことを、実質国内総生産額は実質純固定資本総額の指数関数として表示することができるという意味のみに解釈すれば、すなわちパラメータνを「営業余剰総額/(営業余剰総額+雇用者所得総額)」とは無関係な定数とすると、 一番簡単な現象論的表示は次の図9に示すようなものである。しかも雇用者総数の代わりに年間総労働時間(=雇用者総数*年間平均労働時間)をとれば別の全要素生産性を計算することができる。
結果は図に示すようにこの場合にも、全要素生産性はほとんどゼロである。
§2 固定資産減耗率の推定について
国民経済計算年報においては純固定資産減耗額は簿価方式で表示されている。従って純固定資産形成額から固定資産減耗額(簿価)を引いたものはストックとしての純固定資本の増加額とはならない。ストックとしての固定資本増加額は資本そのものの評価額が変化すること、および資産減耗には企業倒産その他の資産消滅など、実際に消滅した固定資産の総体を考慮する必要があるからである。これらを考慮し、実質純固定資本総額についてその増加額を改めて検討しなければならない。ストックとしての純固定資本総額の差と純固定資本形成額とから実際の固定資産減耗額(時価と表示)は次の式を使って計算できる。
δG(時価)=[D(当年)/D(前年)]*G(前年)+ΔG(当年)-G(当年)・・・・・・・・・・(4)
但し、G はストックとしての純固定資本総額、ΔG は固定資本形成額、δG は固定資産減耗額、D は '90 年の値を”1”に規格化したデフレターである。
固定資産減耗率は平均すれば 0.091 という値となる。
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