第二次世界大戦後の日本経済そのV

1999、7、22 福永  

平均利子率と平均利益率の関係

 §1 日本の金融資産と金利の構造

 これまでの議論においては、数十年に亘って日本全体の「金融資産増加額/純固定資本増加額」の比がほとんど変化しない定数であり、原理的には「利益率/利子率」に近い値であろう事も議論してきた。しかし利益率や利子率の実体については具体的な分析はしてこなかった。従ってここではこれらのことについて検討を行うつもりである。

 1969年以降の金融資産については資料「国民経済計算年報(1997年経済企画庁)」に記載されているが、ここでは1969年以前のデータを追加する。1955年以降の年間金融資産増加額については同じ資料に記載があるのでこれを使って、69年以前については増加分を順次引き算していくことにより金融資産総額を推定する。59年以前の数値は累積誤差が余りに大きくなるように思われるので除外することにした。また株式資産についてはその評価額が変化するので累積計算することは無意味であり除外した。

 次の図は以上の手続きに従って求めた日本の株式を除く金融資産の総額と全体に対する比の推移である。

 当然のことであるが、金融資産として見ると、誰かの資産は必ず他の誰かの負債でなければならない。非金融法人企業、金融機関、一般政府、家計・個人企業・非営利団体の4つに区分すると、金融資産の比率は緩やかに変化している。以下の議論においては”株式を除く金融資産”を単に”金融資産”と書くことにする。”金融資産増加額”についても同じである。

 金融資産の増加の様子は次のようになっている。

 全体の中での非金融法人企業の資産、負債の比重は次第に小さくなり、代わって一般政府の比率が大きくなってきている。

金融資産の利子についても受取利子総額と支払利子総額は全く等しい。

 支払利子の比率から見ると非金融法人企業のそれが次第に少なくなるのに対し、金融機関のそれは逆にそれを埋めるように大きくなる。

 図4は制度別の受取利子と支払利子の差を示す。

 図から明らかなように、非金融法人企業の支払った利子が金融機関と家計に移行している。配分比はデータを分析した期間のほとんどにおいて余り変化しないことも1つの特徴である。

 日本全体の利子の受取総額または支払い総額の金融資産増加総額または負債増加総額に対する比は図5のようになっている。利子の受取総額は金融資産そのものに比例し、あまり大きく変化してこなかったことが判る。平均利子率は全期間をならすと 6.2% であった。

 §2 金融機関への利益の配分

 金融資産に対する受取利子の比は平均の受取利子率であり、負債に対する支払い利子の比は平均の支払利子率である。それぞれの制度毎または全体としての各利子率の関係は次のようなものである。

 非金融法人企業の営業余剰率は非金融法人企業の負債支払い利子率にほぼ等しく、それはまた家計・個人企業の金融資産の受取利子率に等しい。他方で金融機関の利子率はこれらと大きく異なっていた。図6はこれらのまとめである。

 図6の@から判るように非金融法人企業の営業余剰率と負債利払率はほとんど同じと見ることが出来る。また図6のBA、BB とBC の比較から判るように、一般政府の資産受取利子率と負債支払利子率がほとんど同じであり、しかもそれらは家計等の負債支払利子率ともほとんど違いはない。一般政府の負債利子率に対し2つのパラメータの関数を加えたものをCに示す。CA は 非金融法人企業営業余剰率を加え0.85倍に、CB は非金融法人企業負債利子率を加え0.85倍にしたものである。これら両者は共に、金融機関の受取利子率と非常似よく似たものとなる。係数 0.85 は出来るだけ金融機関の負債利子率に似た変化をするように決めたものである。営業余剰率の場合に60年代後半の状況は再現することはないが、全体としてはよく再現していると言えよう。

 図6のCA,Bでは一般政府の利子率を基礎に計算したが、BBとBCの類似性を考えれば、一般政府の金利は家計・個人企業等の負債利払い率であるから、CA、Bの計算は家計・個人企業等の負債利払い率プラス非金融法人企業の営業余剰または負債利払い率と書いても良いことになる。金融機関の受取利子は確かに家計・個人企業等からと非金融法人企業からの利子として支払われたものであるから此の説はもっともであるように見える。しかしこのことは金融機関の受取利子率が両者の和の形であることを直接説明するものではない。

 図7は金融機関以外の受取利子に対する金融機関の支払い利子、及び金融機関以外の支払い利子に対する金融機関の受取利子の比を取ったものである。

 金融機関の支払い利子の総額は外部の3制度の受取利子の総額より大きく、また金融機関の受取利子の総額は3制度の支払い利子の総額より大きい。明らかに金融機関内部での利子の移動が次第に大きくなって来たことを示している。金融機関相互における平均金利が外部に対するものと同じとすれば、図7の比の”1”を越える部分は金融機関相互の資金移動の大きさの外部との比を示すものとなる。資金の内部移動が急激に拡大したと解釈することが出来る。

 ところで金融機関の両利子率は図6のCに見たように一般政府の両利子率と関係があるようにも見える。そこで外部の利子率と一般政府の利子率の適当な合成によって金融機関の利子率を再現することを試みる。この解釈は金融機関相互の間での資金移動の割合は余り変わらなくても平均利子率を適当に選べば金融機関の利子率を説明ことが出来るとの立場である。

 図8に示すように金融機関の両利子率は「金融機関以外の利子率(売上債権を除く金融資産に対する受取利子の比または買い入れ債務を除く負債に対する支払い利子の比)+0.65*一般政府の利子率」によっておよその値と全体的傾向をあらわすことが出来る。金融機関相互の間での資金移動に伴う平均利子率を一般政府の利子率と書いているが、金融機関相互の間での平均金利についてのデータを持ち合わせていないので、ここでは一般政府のそれを参考にしたまでである。図6のAC すなわち公定歩合は確かに日銀からの短期資金の貸出金利であるが、一般政府の利子率とは大きく異なる。平均利子率には長期資金の利子率が大きな比重を占めており、したがって金融機関の内部での資金移動の平均利子率を公定歩合で推定することは適当ではない。

 図8に見られるように金融機関の金融資産受取利子率についてはほぼ再現することが出来るが、負債支払い利子率については60年代の中頃から70年代前半に掛けては一致は必ずしも満足できるものではない。しかし全体としては金融機関内部での資金の交換過程の利子率は一般政府の利子率に近いものでよいことを示している。即ち金融機関は外部から預かった資金の約65%を内部で相互に移動させておりその際の平均利率は一般政府の利率であるとすれば金融機関の利率を説明することが出来る。一般政府の利子率は個人等の負債支払利子率に直結するが、金融機関に対しては受取と支払いの両利子率に等しくプラスされて、金融機関の利益に影響を与えることはない。

 金融機関の受取・支払い利子の差は金融機関の利益であり、それは他の制度の負債利子に依存している。実際には金融機関の利益率(利子の差/関係金融資産の総計)は主に非金融法人企業の負債利子率に比例する。図9はこのことを示している。

 個々の金融機関の実際の関係金融資産(金融資産+負債)の総計は外部に出されている関係金融資産の 1.65 倍であることを考慮すると、”実際の利益率”は外部に出されている資金による利益率の1/1.65倍となる。従って図9に示した関係は「7*金融機関の利益率=7*1.65*金融機関の”実際の利益率”=非金融法人企業の負債(買い入れ債務を除く)の支払い利子率」となる。

 金融機関の利益率と非金融法人企業の負債利子率が比例する関係であることがはっきりしたが、既に見たように負債支払利子率は非金融法人企業の営業余剰率(の主要部分)でもある。即ち金融機関の利益率は非金融法人企業の営業余剰率に比例しているのである。この比例計数 7*1.65≒11.6 は金融機関の自己資本比率と関係があると思われるが、改めて検討されなければならない。

 金融機関の利子率が他のものと異なることの2つの理由(内部資金移動が増加したことと内部での利子率が外部に対する利子率と異なること)を見てきたが、いずれの場合も基本的には金融機関内部での資金移動、即ち中央銀行(日銀)と市中銀行の間の移動および市中銀行やその他の金融機関の間での資金移動が存在することに基礎を置いていることに変わりはない。金融機関相互での資金移動は統計上では金融機関全体の金融資産の総量を変えるものではなく、資産増加額や負債増加額にも、又資産や負債の集計にも顕れない。従って金融機関の内部において一定量の資金が貸し出され借り入れられているとすれば、個々の金融機関の総計としての見かけの受取利子率が外部に対する利子率とは違ったものとなることは不自然ではない。

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