私たち自身も含めて、私たちの周りの物質は、原子から構成されています。 原子は電子と原子核に分けることができます。 電子は基本粒子ですが、原子核は陽子と中性子(これらを総称して核子と呼びます)から成り立っています。 さらに、ここに登場した陽子や中性子は、自転にあたる「スピン」という内部自由度を持っているため、小さな磁石になっていることが分かっています。 医療用のMRI(磁気共鳴断層撮影)では陽子が小さな磁石になっていることを利用して体内の様子を撮影しているなど、日常生活のさまざまなところで「スピン」は役にたっています。 ところが、このスピンが何によってもたらされるのかが、実はまだよく分かっていないのです。
陽子や中性子は、内部に構造があり、より基本的な粒子である「クォーク」が結びついて出来上がっていることが分かっています。 クォークは核子の内部に閉じ込められているのです。 このクォークもスピンを持っているので、これまでは核子のスピンはクォークのスピンが原因と考えられてきました。 ところが、最近の実験でクォークのスピンの寄与が小さいことが明らかになってきました。 では、核子のスピンは何によっているのでしょうか?
クォークの間の力を記述するQCD理論によると、クォークを核子の内部に閉じ込める役割をする「グルーオン」という粒子が存在します。 このグルーオンもやはりスピンを持っています。 この研究では、特に核子のスピンに対するグルーオンのスピンの役割を調べることを目的にしています。 この研究をすすめるために、核子のスピンをそろえた「偏極ターゲット」に、大型加速器から取り出したビーム(このビーム粒子のスピンも揃えてあります)を入射して、反応の起こりやすさを調べる国際共同実験COMPASSをCERN(欧州原子核研究所)で行っています。 実験には12カ国の研究者が参加し、それぞれの得意な実験装置に責任を持っています。 山形大学は「偏極ターゲット」の技術を持つ世界でも数少ないグループのひとつに数えられ、重要な貢献をしています。
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陽子、中性子内部のイメージ 球がクォークを、スプリングがクォークの結合に関与する粒子グルーオンを表す (ここをクリックすると大きな図になります。612KB) |