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第3章 光の速度と相対論

 光速は秒速30万キロメートルという大きな値で知られています。日常生活で登場する速度と比べると光速は事実上無限大のように感じます。しかし光速は非常に大きな値ですが無限大ではありません。このことを厳密に取り扱うと相対論が必要になります。相対論的力学は古典物理学を拡張したものであり,運動する物体の速度が光速と比べて無視できるほど小さい極限で古典力学になります。この章では最初に光速が無限大ではないことをどのようにして気づいたのか、有限にするとどうなるかを考えます。

光速の有限性

 最初に光速を測る実験をしたのはガリレオであるとされています。彼はこの実験を弟子にさせました。1マイル離れた丘の上でランタンの光を交換して往復距離を往復時間で割れば光速が得られるはずである,というものでした。現在知っている光速の値を使うと往復時間は11マイクロ秒にしかならないので,光を見て動作をするという人間の作業時間の方がはるかに長い時間を要することを考えると,この実験が失敗して当然であることになります。

 実験は失敗でしたが,安易に無限大であるとするのではなく,実験的に確認しようとする態度は注目に値します。このような実験を成功させるためには往復距離を天文学的な長い距離にするか,短い時間でも精度よく測定するかのどちらかが要求されます。現在の電子技術では,光でもたった30センチしか進まない1ナノ秒以下の電子回路処理も可能です。このような技術を使わないとすれば,残る方法は,地球を飛び出して,天文学的に長い距離を利用することになります。次に述べるレーマーの発見は結果的に地球の公転直径を利用するものです。

 ここをクリックしてみましょう。ハブル望遠鏡で得られた、木星の周りを回る衛星とその影の動画です。光が右の方から来るので、影は衛星本体より左側に見えることに注意してください。衛星本体が2つ、影は3つ見えます。

 この写真はアマチュアの天文愛好家が木星のガリレオ衛星の動きを30分間隔で撮影したものです。衛星の動きが速いことに注目してください。第1衛星イオは42.5時間で木星を一周します。木星半径の6倍以下の所を回っていますので毎回食が起こることも感じてください。

 レーマーは木星の第1衛星イオが木星の裏側に入ったり出たりする時刻を観測する業務につきました。当時の航海技術,通信技術,時計の精度を考慮すると,この食の始まり,終わりの時刻を知ることは地球上の経度(パリとの経度の差)を知る上で必要なことでした。レーマー以前からイオの公転周期(平均で42.5時間)が平均から規則的にずれることに気づいていました。それは衝(太陽・地球・木星が一直線に並ぶ時)から合(地球・太陽・木星と並ぶ時)までは公転周期が平均より長く,合から衝までは平均より短く,その平均からのずれの最大値は約15秒,ずれをその期間で積算すると約20分になる,というものでした。その理由は理解できなくても,将来の食に関する時刻を正確に予言できるので,経度を求めるという目的には支障はありませんでした。

 1676年,レーマーはこの原因を説明するとともに光速を導き出すことができました。レーマーは約20分という時間は地球の公転直径を光が通過するのに要する時間だと見抜きました。当時知られていた太陽までの距離は現在知っているものの3分の2であったために得られた光速も現在知られているものの3分の2となりました。現在の値からずれていますが初めて光速が有限であることを知った重要な発見です。

光のドップラー効果

 光とは電磁波の一種で電場と磁場との振動が空間を伝わっていくものです。難しい話を避けるために光には振動数(周波数とも言います)と波長を定義できる、とだけ考えてください。青い光は赤い光よりも波長が短く、振動数が大きくなります。波長と振動数を掛けると光速になります(光速は赤も青も同じ)。

 さてレーマーの観測は「イオの公転周期」がイオから遠ざかりながら光で観測すると伸びる(近づきながらなら縮む)ということでした。約15秒という最大のずれは、1公転の間に地球が動く距離(地球公転速度 X 42.5時間)を光が伝わるのに要する時間であるとして、光速を計算することもできます。それならば同様に周期的現象である光の伝播もその周期が遠ざかりつつ観測されれば伸びる(近づきながらならば縮む)ことは納得できると思います。従って赤信号に高速(光速に近いかなり高速)で近づけば青信号に見えることになります。但し信号無視よりもスピード違反が重大です。光のドップラー効果が光速が無限大でないために起こる現象であることと音のドップラー効果が音速が無限大でないために起こることとで理由は共通であることに注意してください。元素が出す光は連続的ではなく飛び飛びの、元素特有の波長になりますが、天体からの光がその波長からずれていれば天体の視線方向の速度を求めることができます。宇宙膨張のハブルの法則の「後退速度」は波長の伸び(赤方偏移)から得られたことを思い出してください。


特殊相対論

 秒速30万kmという光速は何を基準にしての速さでしょうか。無限の速さならば基準を考えることはできません(無限大に何かを加えても無限大で、その間で大小の比較はできない)が、有限の速さの場合は基準によって光速が変りそうに思えます。この基準の問題は光速が有限であるために初めて起こるものであることに注意してください。地球が基準なのでしょうか、それとも地球の周りの「空間」(または太陽)が基準なのでしょうか。太陽の周りを公転している地球の公転速度は光速の約1万分の1もあります。地球に到来する光は地球の公転の正面から来る場合と後ろから追いかけて来る場合とで、地球公転速度による影響を受けて地球で測る光速が変わるのでしょうか。変わるとすれば1万分の1の効果ではなく1次の効果が相殺して2次の効果である約1億分の1の効果になりますが、それでも精密な装置では観測できます。19世紀末にマイケルソン・モーレーによって実験が行われました(マイケルソン・モーレーの実験)。

 結果は光速は方向によって変わらないということでした。しかし、これを受けて地球を宇宙の絶対的な基準とする訳にはいきません。そうすれば天動説の復活を意味します。

 お互いに動いている基準のどちらにとっても、有限である光速が同じである、という実験事実を受け入れると、速さの加減算のこれまでの常識(さらに時間・空間のこれまでの常識)の根底が崩されてしまいます。実験結果と両立する新しい時間・空間の概念を与えたのがアインシュタインの特殊相対論です。

 アインシュタインは次の2点を原理(前提)としました。

  1. すべての慣性座標系で物理法則は同じ(相対性原理)
  2. 真空中の光速は光源速度によらず一定(光速不変の原理)

 この2つの前提を認めると以下に述べる結論が簡単に得られます。

双子のパラドックス

 上記の「時間の遅れ」で照合できないとしましたが、一方が戻ってくればじっくり照合できます。その場合でも同じ場所で他方の時間経過が少ないということが正しいのでしょうか。そのために次の場合を考えましょう。

 双子の一方が高速度で宇宙旅行して帰ってきて年齢(時間の経過)を照合するとする。「時間の遅れ」で説明したことによれば,留守番から見れば旅行者の時間経過が少ないので「旅行者が若い」と言うはずです。

 ところが旅行者から見れば,慣性座標系が平等であるならば留守番こそ地球と一緒に逆向きに往復運動をしてきたことになるので,「留守番が若い」と主張することになります。この経過時間の照合は同じ場所で行うので,情報伝達時間を考慮する必要はありません。この矛盾した主張が両立できない事は明らかです。この矛盾を「双子のパラドックス」と言います。このパラドックスを乗り越えないと特殊相対論全体の真偽にかかわります。

 「双子のパラドックス」として単に「時間の遅れ」を説明しているホームページが多数あります。「双子のパラドックス」は「時間の遅れ」の盲点(?)を突く問題提起に過ぎません。両者の違いに十分注意してください。「盲点」でないことは授業で説明します。

(予習課題3-1) この問題(パラドックス)の解決法を授業で説明する前に提出することを課題とします。パラドックスの解決ではなく単に時間の遅れを説明しているホームページが多数ありますので注意してください。(提出期限は授業で説明する前日です。メールを発信するにはここをクリックします。)

締切りました。(遠藤可奈子) 弟が地球にいる間、兄が高速で旅行に行って帰ってくるとすると、兄は地球に帰ってくるために途中で向きを変えないといけない。このため、地球に固定した座標系、行きの座標系、帰りの座標系の3つを考えなければならない。 弟から見ると、動いている兄の方が常に時間の進みが遅いため弟の方が歳をとる。 また兄から見ると、動いている弟の方が最初は時間の進みが遅いけれど、兄が方向転換した瞬間に弟の時刻の方が遅くなる。 このように、兄の行きと帰りとで座標系が換わることにより、どちらから見ても弟の方が歳をとっていることになる。
参考:http://homepage1.nifty.com/tac-lab/futago.html

速度の加算

 簡単な式ですので速度の加算の式を表示します。慣性座標系 S に対して別の慣性座標系 S' がある方向に相対速度 v1 で等速運動し,さらに慣性座標系 S' に対して別の慣性座標系 S'' が同じ方向に相対速度 v2 で等速運動するとき,S 座標系に対する S'' 座標系の速度 v は v = v1 + v2 でなく

   v = ( v1 + v2 ) / ( 1 + v1v2/c2 )
となります。

相対論的質量

 必要に応じて、質量について復習しよう

 速度の加算の式からわかるように速度が光速に近づくと加速しにくくなります。加速とは速度の加算であることを思い出してください。また「加速のしにくさ」は「慣性の大きさ」すなわち「質量の大きさ」であることを思い出すと,速度が大きくなると質量が大きくなることを意味していることがわかります。

 質量 m を速度 v の関数として表現すると,

   m = m0 / ( 1 - v2 / c2 )1/2
となります。このように相対論的には質量も速度に(慣性座標系の選択に)依存してしまいます。ここで m0 は静止したときの質量(物体と共に動く座標系で測る質量)で「静止質量」と呼びます。これは慣性座標系の選択によらない量です。この静止質量はこれまでの古典力学での質量に対応します。

相対論的エネルギー

 m0c2 はエネルギーの次元を持つので,これもエネルギーの一つの形態と解釈して、これを「静止(質量)エネルギー」と呼び、従来のエネルギーに加えたものを「相対論的エネルギー」と呼んでみましょう。それを E で表すと

   E = mc2
の有名な式が得られます。この式は相対論的質量と相対論的エネルギーはどの慣性座標系でも共通の比例関係が成り立つ(比例係数 c2 は慣性座標系の選択によらない定数であることに注意)ことを意味する重要な式です。

 単に比例関係にあるので,質量で議論してもエネルギーで議論しても,実質的に同じことになります。従って広い意味の「エネルギー保存」は広い意味の「質量保存」と同義になります。

 原子力エネルギーの説明などで「質量がエネルギーに変換された」という言い方をすると,質量もエネルギーも保存されることに反します。厳密には「(静止)質量エネルギーが運動エネルギーに(さらに熱エネルギーに)変換された」と言うべきです。こうすればエネルギー(及び質量)の増減がないことが保証されます。また静止質量が減っても運動しているので相対論的質量は減らないことが保証されます。



重力と一般相対論

 特殊相対論は慣性座標系での法則ですが、完全な慣性座標系は存在しません。地球に固定した座標系は、地球自体が自転公転という加速度運動をしていることをしているので、非慣性座標系です。太陽も銀河中心の周りを公転運動していること、銀河中心も近くの銀河との間で重力を及ぼしあっていたり、宇宙膨張の運動をしていること、などを考えると理想的な慣性座標系はないかも知れません。そうすると非慣性座標系でも通用する相対論(一般相対論)に拡張する必要があることになります。

 一般相対論では次の2つのことを前提とします。

  1. 非慣性座標系の間で物理学法則は同等である。(一般相対性原理)
  2. 慣性力と重力は区別できない。(等価原理)
ここで「慣性力」とは非慣性座標系で現れる見かけ上の力です。例えば円運動しているときに現れる遠心力なども慣性力です。この前提から以下のことが導かれます。



重力による時空の歪みが現れる現象

 重力によって時空が歪められますが、その大きさは非常に小さいので日常生活では感じられません。重力が非常に強い天体現象か非常に精密な測定によらなければなりません。以下にその例を挙げます。


第3章のQ&A


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