核子のスピン構造の研究 [ Study of Nucleon Spin Structure]

 この世界に存在する物質は、原子から構成される。原子は電子と原子核が結合したものである。電子は自転にあたる物理量であるスピンを持つが構造を持たない点状の基本粒子として理解されている。一方、原子核を構成する陽子や中性子などの“核子”は、3個のクォークから成る複合粒子としてクォークモデルによって解釈され、核子スピンの発現機構も含めて説明できると考えられてきた。しかし、クォークの相互作用を記述する量子色力学(QCD)を基礎にした時、その構造には多くの疑問が残っている。クォークレベルにおいて核子のスピンがどのように発現するのか? 何が核子のスピンを担っているか? 何が核子スピンの起源なのか? これらは未だに解決されていない謎である。このスピンの謎を実テキスト ボックス:    

核子スピン構造の描像:
(左)クォークスピンが核子のスピンを担う描像(クォークモデル)、
   大きな矢印が核子スピン、小さな矢印がクォークスピンを示す
   2つのクォーク(例えば赤色と告F)のスピンが相殺し、
1つのクォークスピンの効果が残り、核子スピンとして発現する
(中)クォークやグルーオンのスピンが寄与する描像、螺旋がグルーオンを表す
   グルーオンから生まれる海クォークのスピンも考慮する
(右)クォークやグルーオンスピン以外にそれらの軌道回転が寄与する描像
験的に解明することが、この研究の目的である。

 

核子スピンの起源として3つの候補が考えられる。それらは、(1)クォークのスピン、(2)グルーオンのスピン、(3)クォークやグルーオンの軌道回転運動である。ここで、グルーオンは、QCD理論においてクォーク間にやりとりされ、クォーク間の力を作り出すゲージ粒子である。これまでの研究から、クォークのスピンの寄与は約30%程度とそれほど大きく無いことが分かっている。私たちは2番目の候補であるグルーオンスピンの寄与の大きさを調べるための実験を行ってきた。さらに3番目の軌道回転寄与の大きさを見積もるための実験計画の準備を進めている。

 核子内部を調べるためには、高いエネルギーの粒子ビームを核子のターゲットに入射し、その反応のスピン依存性などを分析する。核子内部を調べられるほど高いエネルギーのビームを発生させる粒子加速器は日本国内には存在しないため、本研究は外国の大型加速器を用いて行われる。我々は、スイスのジュネーブにあるCERN(ヨーロッパ原子核共同研究機構)のSPS(超陽子シンクロトロン)を用いたCOMPASS実験や米国のフェルミ国立研究所のMain-Injector陽子加速器を用いたE906実験を進めている。

 

研究組織:岩田高広、宮地義之、堂下典弘、近藤薫(山形大学理学部)

 

COMPASS実験(CERN

COMPASSは11カ国の25研究機関から200名近い研究者が参加するCERNでの大型国際共同研究であり、核子のスピン構造やハドロンの形態を探る研究を推進している。日本からは山形大学を中心とする日本グループが参加し、特に実験の中核装置である偏極ターゲットを分担している。

 

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l  COMPASS実験のパンフレット

l  科学研究費補助金「特別推進研究」(H18H21

「大型偏極ターゲットを用いたハドロンのクォーク・グルーオン構造の研究」、報告書(抜粋)

l  CERN, COMPASS国際共同研究のホームページ

l  COMPASS日本グループ

山形大学(岩田高広、堂下典弘、近藤薫、道上琢磨)

宮崎大学(松田達郎)

中部大学(堀川直顕、鈴木肇)

KEK(石元茂)

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